◇【産経抄】1月10日 産経新聞(2008.1.10)
▼医療現場でも、「引き算型」患者の存在が問題になっている。医師側に問題がある場合もあるが、適正な治療に対しても、執拗(しつよう)にクレームをつける。自分の思いこみにすぎないのに、事故と決めつけて訴訟を起こす、なかには、自己負担分の医療費を支払わない患者までいる。
▼もちろん、現在の「医療崩壊」をもたらしたのは、厚生労働省の失政だ。もともと不足している勤務医が、疲れ果てて現場から逃げ出しつつある。『中央公論』1月号に掲載された若手医師の座談会を読むと、事態はより深刻だ。米大統領選で勢いを取り戻した、民主党のヒラリー・クリントン上院議員が仮に大統領の座につけば、相当数の日本人医師が米国へ流出するという。
▼議員の持論である皆保険制度を導入すれば、4000万人もの患者が新しく生まれ、大変な医師不足になるからだ。若手医師は言い切る。これまでの医療水準を保つことは何をやっても無理。「何を我慢するか」について国民が合意するしかない、と。
産経新聞が、産経新聞らしからぬコラムを書いています。これまでの産経新聞の報道と言えば
- 産経新聞が社説でアサヒる(2007.12.21)
- 産経新聞、4コマ漫画で救急医療の現場を侮辱(2007.12.17)
- 産経新聞、相変わらずの「たらい回し」表記(2007.12.7)
- 産経新聞論説副委員長の無知っぶりと詭弁(2007.11.28)
- 厚労省天下りのこども未来財団理事が、産経新聞で医療の効率批判(2007.10.16)
- 「たらい回し」表記の新聞社一覧 産経新聞は論外(2007.9.3)
と、「一方的に現場をバッシングしまくる」論調で一貫していたのですが、なぜか、社説と並び新聞の顔とも言えるコラム欄で、これまでの論調とは違うことを書いています。
その変貌ぶりにとまどいつつも、とりあえず気になる部分にツッコミをいれると
もちろん、現在の「医療崩壊」をもたらしたのは、厚生労働省の失政だ。もともと不足している勤務医が、疲れ果てて現場から逃げ出しつつある。
確かに、医療崩壊をもたらしたのは厚生労働省の失政ではありますが、とどめを刺したの方の中には、マスコミ様も入っています。今まで、医療従事者の勤務環境が悪くても・・・(と説明しようかと思ったけど、さんざん書いているので省略)
なぜ、頑なに医療バッシング報道を続けてきた産経新聞が急に論調を変えたのかが、気になりますが、よくよく読んでみるとわかりました(いや、そこまで読まなくてもわかるんだけど)。言っていることは
「現場も限界があるんだから、それは患者(国民)が我慢しなさい」なんですよね。
「医療崩壊を防ぐために、足りないスタッフや予算を増やそう」ではなく、「我慢しなさい」。つまり、これまでと同じように「足りないからと言ってスタッフや予算を増やす」という考えはありません。
過剰な要求・クレームは我慢しましょうという部分には、納得できるところもありますが、「そもそもマスコミが、『医療はサービス。患者は客。我慢しなくて当たり前』 『病院で死んだら医療ミス』みたいな報道を続けてきたからだろ!」と、つっこまずにはいられません。
さて、名前の通り、産業と経済界の新聞である産経新聞は、GNP比医療費が先進国中最低水準だろうが、人口対のスタッフ数が先進国中最低水準だろうが
社会保障費を増やすことを嫌ってきました感があります。(「その分は大企業優遇に回せ」というスタンス)
今までは、「医療費は高い!無駄があるから現場はもっと働ける」と医療バッシングを続けていたのですが、「さすがにこれ以上は無理っぽい」と、ちょっとだけ理解したらしく、矛先を患者(国民)にも向け始めたのが、今回の産経抄なのかな〜と思ってみた冬の夜でした。
もしかしたら、昨日、AFP通信が報道したこんな記事が影響しているのかも知れません。
◇先進国19か国中、医療大国1位は仏、2位は日本 AFP(2007.1.9)
【1月9日 AFP】英国の研究チームが先進国19か国を対象に行った回避可能な死に関する調査結果が8日、米医療経済・政策専門誌「Health Affairs」の1・2月号に掲載された。それによると、適切なタイミングで効果的な医療を提供している国の1位はフランス、2位は日本だった。一方、米国は最下位に沈んだ。
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