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大野病院事件と各社の報道まとめ

大野病院事件についての報道各社の記事はこちらからどうぞ


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2008.8.21 1:00現在の判決後の各紙の報道です。
産経新聞がすごい勢いで記事を掲載されています。(掲載順は記事数順)


産経新聞
 ○【医療と刑事捜査】(上)対峙するエリート(2008.8.20 22:23)
 ○「当然の判決」と医療界 大野病院事件(2008.8.20 21:11)
 ○【視点】無制限に医師の裁量を認めるものではない 大野病院事件(2008.8.20 20:37)
 ○「逮捕は正当」 県警と地検がコメント 大野病院事件(2008.8.20 19:57)
 ○死亡女性の父親が会見 「非常に残念」 大野病院事件(2008.8.20 19:50)
 ○無罪の加藤医師が会見 「ほっとした」 大野病院事件(2008.8.20 19:36)
 ○日本生殖医学会も歓迎 大野病院事件無罪判決(2008.8.20 14:47)
 ○大野病院事件「妥当な判決」 日産婦学会が声明(2008.8.20 12:44)
 ○帝王切開死亡事故で医師に無罪判決 「医療過誤なかった」(2008.8.20 11:52)
 ○大野病院事件無罪判決 裁判以外の解決策を(2008.8.20 11:46)
 ○無罪判決に産科医、身じろぎせず 遺族は涙(2008.8.20 11:35)
 ○帝王切開死亡事故 大野病院産婦人科医に無罪判決 福島(2008.8.20 11:22)


毎日新聞
 ○大野病院事件:医師無罪で双方会見 死亡女性の父「残念」(最終更新 2008.8.21 0:07)
 ○福島・大野病院医療事故:産科医に無罪判決 術中の判断「正当」−−地裁(2008.8.20 東京夕刊)
 ○大野病院医療事件:判決に被告は安堵 遺族は目を閉じ…(最終更新 2008.8.20 14:35)
 ○大野病院医療事件:帝王切開の医師に無罪判決 福島地裁(最終更新 2008.8.20 13:15)


読売新聞
 ○医療界挙げて被告の医師支援…帝王切開死判決(2008.8.20 14:38)
 ○「なぜ事故が」…帝王切開死、専門的議論に遺族置き去り(2008.8.20 14:14)
 ○帝王切開で29歳失血死、医師に無罪判決…福島地裁(2008.8.20 13:59)
 ○「帝王切開死」医師に無罪


朝日新聞
 ○福島県立大野病院事件の福島地裁判決理由要旨(2008.8.20 14:16)
 ○産科医に無罪判決 帝王切開での女性死亡事故 福島地裁(2008.8.20 13:47)


日本経済新聞
 ○帝王切開死に無罪 医師が現場復帰に意欲、遺族「残念な結果」(2008.8.20 22:06)
 ○帝王切開死、産科医に無罪 大野病院事件で福島地裁判決(2008.8.20 14:03)


神戸新聞
 ○大野病院事件判決要旨 福島地裁(2008.8.20 19:49)


あと、共同通信の47NEWSに、恐ろしくまともなコラムがあったので紹介(呼び起こしたのは「事なかれ主義」ではないと思うけど・・)


産科医 47NEWS

47コラム(2008.8.20 12:25)
遺族の感情を優先して考える風潮を戒める判決が20日、福島地裁から出た。4年前、帝王切開で出産した女性が手術中に死亡し、それから1年以上たって、担当した医師が業務上過失致死と医師法違反の疑いで逮捕された事件。判決は無罪だった。 →判決要旨
医師不足に悩む地域医療。それに追い討ちをかけたのが、この福島の出来事だった。産科医たちの間に「こんな目にあうんじゃ、もうやってられない」と事なかれ主義を呼び起こした。産婦人科医を希望する医学生が減ってしまった。「産婦人科」の看板から「産」を削除し「婦人科」専門のクリニックに転進するドクターも増えた。この判決が、行き過ぎた医療ミス弾劾の流れを考え直すきっかけになればいいと思う。
確かに遺族の落胆はある。法廷では、亡くなった女性の父親が、無罪と聞いて肩を落としハンカチで目元をぬぐったという。
しかし、医師が善意の医療行為を尽くしても命を救えないことはある。「それを注意義務違反と言われて罪に問われる時代になったのか」「難しいお産は別の病院に回してしまったほうがいい」−−全国の産科医の間に広がる事なかれ主義に歯止めをかけなければいけない。「萎縮医療」などという寂しい言葉は追い払わなければいけない。
「そもそもメディアにも責任がある」。医師たちの不信と戸惑いは、遺族感情に偏りがちな私たちの報道姿勢にも向いている。(憲)

メタボの診断基準が国際的に統一へ。腹囲が外れるも日本は継続

メタボ診断:国際基準、腹囲外れる 日本は維持か−−年内にも発表 毎日新聞(2008.8.20)

メタボリックシンドローム内臓脂肪症候群)の診断基準が国際的に統一され、腹囲が診断の必須条件から外れることが分かった。年内にも暫定基準が公表され、今後、世界のメタボ診断や治療・研究は、統一基準に基づいて行われる。一方、日本が今年度から始めた特定健診・保健指導(メタボ健診)では、腹囲測定が必須でシンボル的存在。今回の統一に日本は従う予定はなく、国際的に日本の特異さを際立たせることになる。


クローズアップ2008:メタボ、国際基準統一へ おなか優先、日本だけに 毎日新聞(2008.8.20)

◇男性85センチ、女性90センチ

腹囲測定をメタボリックシンドローム内臓脂肪症候群)診断の第一条件として、今年4月から始まった特定健診・保健指導(メタボ健診)。「男性85センチ、女性90センチ」という腹囲基準の分かりやすさが注目を集めたが、肝心の腹囲が国際的な統一基準の必須条件から外されることになった。世界とは異なる基準で、公的健診を続けることは妥当なのだろうか。【大場あい、永山悦子】

国際的に使われているメタボリックシンドロームの診断基準には、IDF(国際糖尿病連合)とNCEP(米国コレステロール教育プログラム)の2つがあります。


これら2つの診断基準と日本の診断基準を比較すると

IDF NCEP 日本8学会
必須項目 腹囲
男性90cm
女性80cm以上
なし 腹囲
男性85cm
女性90cm以上
追加項目 下記から2項目以上 下記から3項目以上 下記から2項目以上
腹囲 腹囲
男性90cm
女性80cm以上
 
血圧 130/85mmHg以上 130/85mmHg以上 130/85mmHg以上
中性脂肪 150mg/dL以上 150mg/dL以上 150mg/dL以上
HLD
コレステロール
男性40mg/dL
女性50mg/dL未満
男性40mg/dL
女性50mg/dL未満
HDLc40mg/dL未満
血糖 FBS 100mg/dL以上 FBS 110mg/dL以上 FBS 100mg/dL以上
または
HbA1c 5.2%以上

となっています。


このうちIDFと日本8学会の診断基準は腹囲を必須項目としていますが、今回のIDFとNCEPによる国際的基準統一では腹囲が必須項目から外されます。


なぜ腹囲が必須項目から外されるかというと、日本では「メタボ=肥満」「メタボ=おなかがでている」と捉えられていますが、メタボの本来の意味は「代謝」(metabolism)であり、メタボリックシンドロームは「代謝症候群」


メタボリックシンドロームの考え方は

糖代謝異常や脂質代謝異常が重なると
   ↓
インスリン抵抗性や高インスリン血症を引き起こし
   ↓
血管内皮障害となって
   ↓
動脈硬化性の疾患(脳・心血管障害)につながる

というのもであり、そのため、診断基準には、代謝異常や血管内皮障害のリスクとなる項目が並んでいます。(腹囲については、内臓脂肪の蓄積がアディポ・・略・・によりインスリン抵抗性を云々で入りこんでいます)


注意したいのは「肥満でなくても、代謝異常になることがある」といこと。


それなのに「腹囲」を必須項目にしていると、「やせているけど代謝異常があり、インスリン抵抗性も見られる」「やせているけどOGTT(経口糖負荷検査)やったら糖尿病型だった」と言った方が漏れてしまいます。(しかも、少なくない)


そこで、「腹囲は必須項目でなく、追加項目にしよう」


というのが、今回の国際的基準統一にあたっての考え方の元になっているのですが
困ったのが、日本8学会基準の中心となった先生が「腹囲原理主義者」なこと。


さっそく

日本基準の基準策定で中心になった日本肥満学会理事長の松澤佑次・住友病院長は「日本の基準は、腹囲によって対象者をNCEPよりも絞り込んでいる。効率的な対策を実施するという意味では日本基準は正しく、変える必要はない」と話している。
(一番上の記事参照)

と取材に応えているようでして・・・グダグダが続きそうです。


このようなこともあり、保険者によっては、特定保健指導の対象(腹囲が必須)とならない「やせの代謝異常」に対しても、独自に保健指導を行っているところが少なくないです。

大野病院事件と各紙の社説のまとめ

今日の(2008.8.21)の社説では、全ての全国紙が「大野病院事件」について記載しています。


並びは発行部数順。ついでにNHK時論公論も載せておいた。

読売新聞 産科医無罪 医療安全調査委の実現を急げ
朝日新聞 産科医無罪―医療再生のきっかけに
毎日新聞 帝王切開判決 公正中立な医療審査の確立を
日経新聞 社説2 産科事故判決が教えるもの
産経新聞 【主張】産科医無罪判決 医療を萎縮させぬ捜査を
NHK 時論公論 「産科事故裁判からの問いかけ」


判決要旨については、神戸新聞のサイトを参考にしてください→福島県立大野病院事件の判決要旨


また、元検察官で現在は弁護士をされているモトケンさんのブログに、判決要旨について法曹の立場から詳しく解説された記事があります。→大野病院事件地裁判決要旨


さて、各紙の社説ですが、共通する部分もあれば、異なる部分もあります。

判決について

読売・朝日・産経の3紙は、判決について肯定的に捉えている。一方で、毎日は異なる捉え方をしている。

朝日新聞 判決は医療界の常識に沿ったものであり、納得できる
産経新聞 医療のリスクに理解を示した判決である
毎日新聞 刑事責任は認められないが、最善の医療ではなかった、とも読み取れる内容だ
  

捜査当局について

読売・朝日・産経の3紙は、捜査当局による対応を批判している一方で、毎日は医療不信によるものだと主張。

読売新聞 そもそも、医師を逮捕までする必要があったのだろうか。疑問を禁じ得ない
朝日新聞 捜査するにしても、医師を逮捕、起訴したことに無理があったのではないか。慣れない手術でまるで練習台のように患者を使う。カルテを改ざんする。そうした悪質な行為については、これまで通り刑事責任が問われるべきだが、そうでないケースについては捜査当局は介入を控えるべきだろう。
産経新聞 捜査当局は幅広く専門家の意見を聞くなどもっと慎重に対応すべきだった
毎日新聞 警察権力は医療にいたずらに介入すべきではないが、医師の資質を疑いたくなるような医療事故が繰り返されており、医療従事者の隠ぺい体質や仲間意識の強さ、学閥を背景にしたかばい合いの常態化などを考慮すれば、慎重な調査、検証は欠かせない。県警が異例の強制捜査に踏み切ったのも、社会に渦巻く医療への不信を意識したればこそだろう。

今後の医療事故調査のあり方について

これについては、各紙とも厚労省が進めている「医療安全調査委員会」の実現を訴えている。

読売新聞 刑事責任を問うべきほどの事案かどうかは、まず中立的な専門機関で判断した方がいい。故意や重大な過失、カルテの改竄(かいざん)といった悪質な事例のみ、警察に「通知」する。警察は調査委の判断を尊重し、通知の有無を踏まえて対応する
朝日新聞 政府が準備を進めている第三者機関「医療安全調査委員会」をぜひ実現したい。
産経新聞 捜査当局は幅広く専門家の意見を聞くなどもっと慎重に対応すべきだった。今回の判決は創設が検討されている「医療安全調査委員会」制度にも大きな影響を与えるだろうが、この制度は事故原因を究明し、真に再発防止を目指す組織でなければ意味がない。
毎日新聞 多発する医療過誤訴訟に対応するためにも、公正中立な立場で、医療行為の適否を判断するシステムが求められる
日経新聞 事故原因の究明、再発防止、さらには萎縮医療を避けるためにも事故調は必要であり議論を進める必要がある

医療側への意見

事故調設立への協力と、インフォームドコンセント及び事故発生時の対応の充実を訴えている

読売新聞 調査委構想は法案化目前まで煮詰まってきた。ところが医療界の中に、警察に通知する仕組みがある限り反対するとの声が強く、足踏みしている。悪質な事例を通知するのは当然だろう。犯罪の可能性があるのに通知しないのならば調査委ができたとしても、警察が直接捜査に乗り出す状況は変わるまい。
朝日新聞 捜査当局が立件しようとした背景に、医師に対する患者や家族の不信感があることを忘れてもらっては困る。この判決を機に、医療の再生を図れるかどうかは、医療機関や医師たちの肩にかかっている。まず、診療中に予期せぬ結果が生じたときに、原因を突き止め、患者や家族に誠実に説明することが大切だ。そのうえで、再発防止策を取らなければならない。
産経新聞 医療は患者のためにある。治療の前に患者側にインフォームドコンセント(説明と同意)を十分行い、難しい局面を経験と知識で乗り切って患者の命を救おうと努めるのが医師の使命だろう。
毎日新聞 事故死については第三者の判断を仰ぐべきだ。医師は事故を隠さず、患者側には納得のいく説明を尽くす。それが医療の信頼回復にもつながるはずだ。
日経新聞 医療事故は後を絶たない。そこで問題になるのは、患者や家族に十分な説明をし、同意を得たかという点だ。この事件でも家族は病院側の説明に強い不満を抱いている。


全体的には読売と朝日の社説がいいかなと思います。


朝日は、患者や家族の不信への対応についても触れており、まさにそうだと思うのですが、医療側だけでなく、十分な説明をしたくても(スタッフ不足などで対応)できない医療体制を強いている行政、さらには毎日新聞のようにバッシングすることが目的となっている報道により生み出されている医療不信感情の解消についても、同時に取り組んでいく必要があると思います。


NHK持論公論(自分の意見こそ公論だとプロバカンダする解説番組)は酷いので、放置しておきます。