保健師のまとめブログ

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厚生労働省医系技官の臨床経験を調べてみた

ロハス・メディカル2008年8月号(vol.35)に舛添大臣のインタビューが掲載されていました。

だから例えば、医学部を出て免許を持っているか知らないけど、インターンぐらいやったかもしらんけど、臨床も何もやらないでずっとやってて、それで、あんた日本のお医者のトップに立つのかね、と。
おかしいだろう、と。だから臨床やるかどうかは別にして、とにかく現場2年ぐらい、腕に自信がないなら病院の事務長としても入ってもいいから、とにかく病院の実態を見てくださいよ、と。そして帰ってくれば、いい政策ができる。


だから、まあ徹底的にやろうとしているのは技官ね。医系、薬系含め技官人事、誰も手をつけないで聖域になっている。私は東大法学部だから、事務官の局長かなんかは全部分かる。ところが局長でも医政とか健康局長なんかはGHQの指令で医師免許がないといけないことになっている、と。
そんなバカなことはないんで。医師免許なんかなくたって、事務能力のある局長がいて、下の課長の何人かに優秀な医者がいればいい。
その医者も臨床やったことない外に出たことないなんてのじゃなくて、ちゃんとやって患者の面倒を見たことある人。看護師でもいい。
外の血も入れて交流していかないとダメなんで、まさに厚生労働省改革というのは、これまでの失敗とウソで塗り固めた状況を変えるということ。

厚生労働省には「医系技官」と呼ばれる方々がいます。医師免許をもった「I種試験は受けてないけど本省課長級になれるなどのキャリア待遇を受けた」技術職員なのですが


舛添厚労相「医系技官に臨床研修を」 日本経済新聞(2008.6.28)

厚労省の官僚には事務系の職員のほか、大学医学部卒の「医系技官」がいる。医療現場の経験を積んでいない医系技官もいるため、医師団体などから「厚労省は現場を知らない」などと批判が出ている。舛添厚労相は医系技官に病院などで臨床経験を積ませることで厚労省内部の活性化にも役立つと判断しているようだ。

大臣はじめとした事務方からも、現場からも「現場をわかっていないくせに」だの「閉鎖的」だのと言われているようでして、とうとう大臣が「お前ら現場に行ってこい」と決めたようです。


さて、ここで、各方面から指摘されている「臨床経験がない」ですが、実際はどうなのかが、気になったので調べてみました。


全員を調べるのは大変なので、本省課長・室長級以上の方々をピックアップ。


ご丁寧にも「平成20年度医系技官採用募集パンフレット(PDF 3.15MB)」の「仕事紹介」に「医系技官が局長・部長・課長・室長である部局」が青でマーキングされていますのでこれを参考にしました。



なお、医師免許登録年は、厚生労働省の「医師等資格確認検索」を利用。検索の対象は「平成20年7月20日付け幹部名簿」に基づいています。



厚生労働省の部局のうち、医系技官が局長・部長・課長・室長である部局長の卒業〜入省までの年数

役職 卒業年 医師登録年  入省年  卒業〜入省
大臣官房技術総括審議官 79年 79年 79年*1
0年
大臣官房審議官
(がん対策、国際感染症対策担当)
79年 79年 79年*1
0年
大臣官房厚生科学課長 82年 82年 82年
0年
大臣官房健康危機管理対策室長 91年
不明
大臣官房国際協力室長
不明
大臣官房保健統計室長 88年
不明
医政局長 81年(院卒) 77年 83年
2年
医政局指導課長 83年 83年 83年
0年
医政局歯科保健課長*3
不明
医政局研究開発振興課長 85年 85年 85年
0年
医政局国立病院課長 82年
不明
医政局医療安全推進室長 89年 89年 91年
2年
医政局医師確保等地域医療対策室長 90年 90年 05年
15年
医政局医師臨床研修推進室長 89年 89年
不明
医政局医療機器・情報室長 88年
不明
健康局長 78年 78年 84年
6年
健康局疾病対策課長 87年 87年 87年
0年
健康局結核感染症課長 85年 85年 85年
0年
健康局生活習慣病対策室長 84年 84年
不明
健康局がん対策室長 92年 92年 92年
0年
健康局肝炎対策室長 89年 89年 91年
2年
健康局感染症情報管理室長 87年
不明
医薬食品局食品安全部長
不明
医薬食品局血液対策課長 84年 84年 84年
0年
医薬食品局国際食品室長 88年
不明
労働基準局安全衛生部長*3
不明
労働基準局安全衛生課長 83年
不明
雇用均等児童家庭局母子保健課長 87年 87年 87年
0年
社会援護局精神・障害保健課長 84年 84年 84年*2
0年
社会援護局
医療観察法医療体制整備推進室長
91年
不明
老健局老人保健課長
不明
保険局医療課長 83年 83年 83年
0年
保険局医療指導監査室長
0年
*1 都道府県庁を経て84年に入省
*2 国立公衆衛生院研究員を経て87年に入省
*3 安全衛生部長は医師登録・歯科医師登録ともに確認できず。歯科保健課長は歯科医師登録
*不明が多く申し訳ございません。同姓同名などがあり特定できなかった方です


眺めてみると、卒業後すぐ入省、または2年研修医をやって入省というパターンが多いですね。そういった人たちに、この国の医療行政は握られているのです。


◇参考リンク

*1:暗躍だろw

札幌市、産科救急にかける金はないが子どもの医療費は無料化

試される大地 北海道の道都「札幌市」が、おかしなことをやりはじめています。


札幌市の産科救急体制は、二次救急と夜間の一次救急を札幌市産婦人科医会に所属している9医療機関が輪番で担っていますが、4年前より5機関も減少したなどの影響で担当医の負担が限界に達し、「ずっと前から言ってきたが、産婦人科は慢性的な人手不足で、受け持ち患者の診療と出産で手いっぱい。これ以上、救急を分担できない。どうにかしてくれ」との声があがりました。


この声を受け、産婦人科医会が札幌市に対し「市の夜間救急センターに産婦人科医師を配置し、一次救急を担当。これで一次と二次を分離して、9医療機関の負担を減らそう。夜間救急センターに配置する担当医師は医師会が責任もつから」と要請。


現場の声を拾った市民にとっても現場にとってももっともいい現実的な案です。しかも、「担当医師は医会が責任を持って探す」と言っているので、行政にとってもいい案でしょう。


と思っていたら、これに対する札幌市の回答は

  • 1.札幌市当局

「夜間救急センターに医師を配置したら7000万円かかる。財源がないし、市民の合意も得られない。9医療機関への報酬を計1000万円増額(1医療機関あたり100万円ちょっと)するから、夜間一次も二次も全部なんとかしろ」

  • 2.札幌市保健所長

「センターへの医師配置は最低でも4000万円かかる。財政が厳しく、市民に説明できない。だから2000万円で助産師や看護師を配置し、相談窓口を設置する」

  • 3.札幌市消防局

「我々にとっては、はじめから二次救急に運びたい。窓口に電話をして救急対応が必要ないとなったときに『あなたは軽症ですから、朝になってから受診してください』と救急隊が説明し納得させるのは非常につらい。救急隊が二次が必要だと判断したら、一次を無視して、二次に運ぶのは問題ないですよね。当然の判断というわけで」

「市の事業の委託を受けて妊婦を受け入れているのだから、受け入れに伴う未収金を補填して欲しいとの意見がありましたが、そんなことしたら市民のモラルハザードをうむので、医療機関がちゃんと回収してください」


それぞれの部局で好き勝手な反論。


「市民の合意が得られない」という部分は、協議会の市民代表は「撤退されたら困る。予算確保してやってくれ」と言っているのと真逆ですし


「2000万円で電話相談」は、どう考えても4000万円で医師配置がいいに決まってますし


消防の意見については

  • 「はじめから二次救急に運びたい」→そのせいで二次が限界に来ているのがはじまりだろ
  • 「救急隊が説明し納得させるのは非常につらい」→必要なければそれを説明するのが仕事だろ
  • 「当然の判断というわけで」→どんな体制になろうと二次に運びます宣言ですか?


と、5回以上、協議会を開いてみたものの改善する気が全くないようなので、産婦人科医会も諦めたようです。


札幌市産婦人科医会、2次救急当番制撤退 読売新聞(2008.7.24)

夜間、行き場がない軽症患者が2次救急を扱う9医療機関に搬送されるケースも多い。市のまとめでは、2007年に9医療機関に救急搬送された261人のうち、6割にあたる161人が軽症患者だった。


こうした現状に、市と医会、有識者などが3月に協議会を設置し、解決策を模索してきた。医会は、市に「医師の負担が増大している。夜間の1次救急は市の夜間急病センター(中央区)に産婦人科医を配置して対応し、2次救急と切り離してほしい」と要望した。これに対し、財政難を理由にセンターへの産婦人科医の配置に難色を示す市は、代替案として、10月から半年間、助産師などによる患者の相談窓口をセンターに設け、当番病院の負担軽減効果を検証することを提案した。しかし、医会側は「検証期間中も結局、患者は当番病院に回ってくる」(遠藤会長)として代替案を拒否したため、市は撤退はやむを得ないと判断した。

仕方ないですね。「産科救急体制維持ごときのためにお金は出せない」と市側が言っているのですから。


ところが、そんな札幌市は、2日後にこんな政策を打ち出しました。


未就学児を来月から無料 市医療費 入院以外、負担なし 北海道新聞(2008.7.26)

札幌市は八月から、四歳から小学校入学前までの子どもの医療費を、初診時負担金を除き原則無料にする。これにより、一定以上の所得のある世帯を除き、就学前の乳幼児は、入院以外の医療費の自己負担がなくなる。

乳幼児医療費助成の外来無料化拡充は「コンビニ受診を招き、小児科崩壊を引き起こしかねない上に、少子化対策には意味がない」という指摘があるのですが、それは予算を使って実施するようです。

  • 今すぐ予算措置が必要な産科救急→予算を充てず
  • 小児科崩壊の引き金になりかねない乳幼児医療費無料化の拡充→実施


札幌市って、やることなすこと「医療崩壊」に向かっています。


なお、「乳幼児医療費助成」ですが、個人的には

  • 慢性疾患を持っていて通院回数が増えてしまう
  • 症状や障害により、大量の吸引用のチューブやおむつなどの(保険適用外の)材料が必要
  • 入院が長期化している


といった場合に、どーんと補助する方が、いいと思います。


◇参考リンク