試される大地 北海道の道都「札幌市」が、おかしなことをやりはじめています。
札幌市の産科救急体制は、二次救急と夜間の一次救急を札幌市産婦人科医会に所属している9医療機関が輪番で担っていますが、4年前より5機関も減少したなどの影響で担当医の負担が限界に達し、「ずっと前から言ってきたが、産婦人科は慢性的な人手不足で、受け持ち患者の診療と出産で手いっぱい。これ以上、救急を分担できない。どうにかしてくれ」との声があがりました。
この声を受け、産婦人科医会が札幌市に対し「市の夜間救急センターに産婦人科医師を配置し、一次救急を担当。これで一次と二次を分離して、9医療機関の負担を減らそう。夜間救急センターに配置する担当医師は医師会が責任もつから」と要請。
現場の声を拾った市民にとっても現場にとってももっともいい現実的な案です。しかも、「担当医師は医会が責任を持って探す」と言っているので、行政にとってもいい案でしょう。
と思っていたら、これに対する札幌市の回答は
- 1.札幌市当局
「夜間救急センターに医師を配置したら7000万円かかる。財源がないし、市民の合意も得られない。9医療機関への報酬を計1000万円増額(1医療機関あたり100万円ちょっと)するから、夜間一次も二次も全部なんとかしろ」
- 2.札幌市保健所長
「センターへの医師配置は最低でも4000万円かかる。財政が厳しく、市民に説明できない。だから2000万円で助産師や看護師を配置し、相談窓口を設置する」
- 3.札幌市消防局
「我々にとっては、はじめから二次救急に運びたい。窓口に電話をして救急対応が必要ないとなったときに『あなたは軽症ですから、朝になってから受診してください』と救急隊が説明し納得させるのは非常につらい。救急隊が二次が必要だと判断したら、一次を無視して、二次に運ぶのは問題ないですよね。当然の判断というわけで」
「市の事業の委託を受けて妊婦を受け入れているのだから、受け入れに伴う未収金を補填して欲しいとの意見がありましたが、そんなことしたら市民のモラルハザードをうむので、医療機関がちゃんと回収してください」
それぞれの部局で好き勝手な反論。
「市民の合意が得られない」という部分は、協議会の市民代表は「撤退されたら困る。予算確保してやってくれ」と言っているのと真逆ですし
「2000万円で電話相談」は、どう考えても4000万円で医師配置がいいに決まってますし
消防の意見については
- 「はじめから二次救急に運びたい」→そのせいで二次が限界に来ているのがはじまりだろ
- 「救急隊が説明し納得させるのは非常につらい」→必要なければそれを説明するのが仕事だろ
- 「当然の判断というわけで」→どんな体制になろうと二次に運びます宣言ですか?
と、5回以上、協議会を開いてみたものの改善する気が全くないようなので、産婦人科医会も諦めたようです。
◇札幌市産婦人科医会、2次救急当番制撤退 読売新聞(2008.7.24)
夜間、行き場がない軽症患者が2次救急を扱う9医療機関に搬送されるケースも多い。市のまとめでは、2007年に9医療機関に救急搬送された261人のうち、6割にあたる161人が軽症患者だった。
こうした現状に、市と医会、有識者などが3月に協議会を設置し、解決策を模索してきた。医会は、市に「医師の負担が増大している。夜間の1次救急は市の夜間急病センター(中央区)に産婦人科医を配置して対応し、2次救急と切り離してほしい」と要望した。これに対し、財政難を理由にセンターへの産婦人科医の配置に難色を示す市は、代替案として、10月から半年間、助産師などによる患者の相談窓口をセンターに設け、当番病院の負担軽減効果を検証することを提案した。しかし、医会側は「検証期間中も結局、患者は当番病院に回ってくる」(遠藤会長)として代替案を拒否したため、市は撤退はやむを得ないと判断した。
仕方ないですね。「産科救急体制維持ごときのためにお金は出せない」と市側が言っているのですから。
ところが、そんな札幌市は、2日後にこんな政策を打ち出しました。
◇未就学児を来月から無料 市医療費 入院以外、負担なし 北海道新聞(2008.7.26)
札幌市は八月から、四歳から小学校入学前までの子どもの医療費を、初診時負担金を除き原則無料にする。これにより、一定以上の所得のある世帯を除き、就学前の乳幼児は、入院以外の医療費の自己負担がなくなる。
乳幼児医療費助成の外来無料化拡充は「コンビニ受診を招き、小児科崩壊を引き起こしかねない上に、少子化対策には意味がない」という指摘があるのですが、それは予算を使って実施するようです。
- 今すぐ予算措置が必要な産科救急→予算を充てず
- 小児科崩壊の引き金になりかねない乳幼児医療費無料化の拡充→実施
札幌市って、やることなすこと「医療崩壊」に向かっています。
なお、「乳幼児医療費助成」ですが、個人的には
- 慢性疾患を持っていて通院回数が増えてしまう
- 症状や障害により、大量の吸引用のチューブやおむつなどの(保険適用外の)材料が必要
- 入院が長期化している
といった場合に、どーんと補助する方が、いいと思います。
◇参考リンク