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処置中でも電話にでないとダメ!読売新聞のトンデモ記事


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患者搬送、消防本部からの専用電話つながらず 読売新聞(2008.1.4)

■2か所の救命救急センター

大阪府東大阪市で交通事故に遭った男性が府内の救命救急センターから相次いで受け入れを断られ、搬送先のセンターで死亡した問題で、うち2か所のセンターでは、搬送を担当した同府大東市消防本部からの専用電話がつながらず、受け入れ要請さえできなかったことが、わかった。

(中略)

応答がなかった二つのセンターのうち、関西医科大付属滝井病院(同府守口市)では、高度救命救急センターの当直医が所持する緊急連絡用の携帯電話に午後10時43分から10分間に4回着信があったが、患者の治療中だった医師がマナーモードにして上着のポケットに入れていたため、気付かなかったという。

また、大阪医療センター救命救急センター(大阪市)には同11時前、医師の携帯電話に着信があったが、直前に搬送された患者を治療中で出られず、10コールほどで切れたという。(2008年1月4日 読売新聞)

「専用電話に繋がらず要請さえできなかったことがわかった」「マナーモードにしていた」と、医師個人に対し悪い印象を抱くような内容となっています雨

では、本当は出ることができるような状況だったのでしょうか?

まず、救急医療の体制について整理します。

救急指定病院の体制は初期(1次)・2次・3次と3つの段階からなっています。

初期救急
 ・厚労省定義:比較的軽症な急病患者の診療を受け持つ休日・夜間救急センターと地区医師会の会員が当番制で診療を行う在宅当番医制
 ・概要:入院や手術を伴わない医療=外来で対応可能な患者さん
 ・例:風邪や患者さん自身が歩けるような場合など


二次救急
 ・厚労省定義:精神科救急を含む24時間体制の救急病院、病院群輪番制方式による施設及び診療所
 ・概要:入院や手術を要する症例に対する医療=入院が必要な患者さん
 ・例:救急車搬送されるようなケース
 ・備考:ここで対応できないケースは3次に紹介・転送

三次救急
 ・厚労省での定義:救命救急センター(高度救命救急センターを含む)
 ・概要:高度な治療を要する症例に対する医療=極めて専門的な治療を必要とする患者さん
 ・例:(大阪医療センター救命救急センターのサイトより引用)
  * 直ちに蘇生法や呼吸・循環の補助を必要とする心肺停止、ショック
  * 脳血管障害(脳梗塞脳出血クモ膜下出血など)
  * 急性心血管疾患(急性心筋梗塞、不安定狭心症、心原性ショック、重症心不全など)
  * 呼吸機能の厳重な監視を必要とする重症呼吸不全
  * 緊急手術を必要とする腹膜炎や出血性病変
  * 肝不全、腎不全、糖尿病などの重篤な代謝性障害
  * 交通事故、災害、転落などによる重症外傷(特に多発外傷や重症頭部外傷、四肢切断など)
  * 火災や化学災害、毒物への暴露などによる急性中毒、重症熱傷
 ・1次、2次の医療機関からの転送および救急車搬送の患者さんを対象とする

  *厚労省の定義については「平成17年医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況」を
   参考にしています。

初期は比較的軽症の患者さんを対象としており、2次・3次になるにつれ、重症度が高い患者さんを対象としていることがわかります。
そして、3次は、1次や2次の医療機関からの転送か救急車搬送(医師や救急救命士などの専門家が「3次での対応が必要だ」と判断したケース)のみを受け入れることになっています。

「とりあえず一番いいところがいい」という発想で、風邪だの腰痛だのが3次に集中したら、その対応に追われ、本当に3次での対応が必要な患者さんへの処置ができないために、このようなシステムになっています。

さて、読売新聞に指摘を受けている関西医科大学付属滝井病院高度救命救急センターや大阪医療センター救命医療センターですが、この2つの病院は3次救急の指定を受けています。

つまり、「極めて重症度が高い」「すぐにCPR(心肺蘇生)が必要だ」といった患者さんの対応を行っている医療機関ですね。

それぞれのウェブサイトにある説明でも

関西医科大学付属滝井病院高度救命救急センター

関西医科大学高度救命救急センターは、厚生労働省指定の三次救急医療機関でありますために、重症や重篤な患者さんの診療を行う施設であり、軽症、中等症の一般の患者さんの診療を行うことは出来ません。また、外来診療も行っておりません。救急病院などからの重症患者の転送依頼を受けたり、救急隊からの重症、重篤患者の直接搬送依頼に応じたりする高次救急医療機関として、年間約700症例の三次救急患者を受け入れております。
大阪医療センター救命救急センター
独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター救命救急センター生命の危機に瀕した人の救命を目的に24時間体制で診療を行なう三次救急施設です
と、やはり、重症・重篤・生命の危機といった患者さんが対象と掲載されています。
つまり、滝井病院や大阪医療センターで処置中・治療中だった患者さんというのは、「一刻を争う」「目も手も離せない」状態であるということです。

そのような状態の患者さんの治療にあたっているときに受け入れることは不可能ですし
「電話を受け、状態を確認し、受け入れの可否を伝える」ことも、不可能です。

その対応をしている間は「目も手も離せない状態の患者さん」から、目も手も離していることになるのですから、亡くなる可能性もあります。

つまり、この記事の言っていることは

「一刻を争う患者さんの処置中であっても電話に気づけるようにマナーモードは解除しておき
電話が鳴ったら処置は一旦中断して、受け入れ不可能だと伝えるべきだ」という

・処置を受けている患者さんにとって
 →一刻を争う状態なのに中断される
・処置を行っている医師にとって
 →受け入れできないほど逼迫している状況で、新たな患者さんの状態を聞き、「でも処置中で受け入れできない」と伝える
・受け入れ要請している救急隊にとって
 →受け入れできないという返事を聞くために時間がとられる

と、誰にとってもメリットがない、むしろデメリットだらけのことを「やるべきだ」と主張している「トンデモ」な内容なんですよね雪

なぜ電話に出られないのかなんて、「3次救急」について調べればわかるようなものだと思うのですが・・調べていないのでしょうかガ−ン


◇参考リンク
関西医科大学付属滝井病院高度救命救急センター
大阪医療センター救命救急センター
救急病院等を定める省令 法令データ提供システム